であ ロニにいちゃん

ロニにいちゃん、げんきですか。

きょおは、さんすうで、ひゃくてんをとりました。

クレアはカイルよりもえらいって、おかあさんがいいました。

はたけのきゅうりが、おおきくなって、もうちょっとでたべられます。

ロニにいちゃんは

 ・
 ・
 ・
 ・


Dare ロニにいちゃん

ロニ兄ちゃん、おしごとがんばってますか。

ぼくはみんなの中で一番、お母さんをてつだってます。

こないだ、アイグレッテから来た人が、ぜんまいっていうので動くおもちゃを持っていました。

ほしかったけど、お母さんがダメって言ったので、あきらめました。

クレスタにかえって来る時は、おみやげにかってきてください。

それから、アレックスが、こないだ

 ・
 ・
 ・
 ・


Dear ロニ

元気ですか?

こっちは、みんな元気にやってます。

相変わらず忙しそうね。でもたまには連絡くらいしなさい。

卒業したって言っても、あんたはうちの家族なんだから。

毎月送ってくるお金だけが、あんたの無事を知る方法なんて、そんなの寂しいじゃない?大体、うちにお金なんて送って、あんたは大丈夫なの?

ちゃんとした食事取ってる?兵舎だから心配はないと思うけど、体を壊しちゃ、なんにも

 ・
 ・
 ・
 ・

 

 「あ〜あ、明日っから、やっと久しぶりの休暇だよなあ〜。ここんとこ、お偉い客が多くて、護衛忙しかったからなあ〜。」

 隣に座る男が、気怠そうな声を上げた。骨太で頑強なその体から発せられる声は大きく、本人にとっては独り言でも、まるで街頭演説のような迫力だ。
 「まったくだぜ。どこの神官様か知らねえが、小隊まで動員させやがって。ハタ迷惑もいいトコだよな〜。」
 ロニは手の中にある便せんを折り畳むと、彼に合わせて大欠伸を出した。淡い銀色の髪が、ガラス張りの天井から注ぐ太陽の光を受けて、キラキラと微かに輝く。

 アタモニ騎士団の兵舎内に造られた中庭。ロニとその相棒は、そこで大きな木に凭れて座り、だらしなく足を投げ出していた。
 いくら昼食後の休憩時間とはいえ、規律の厳しいアタモニ騎士団の兵舎において、こんな砕けた振る舞いをする者は、ほとんどいない。几帳面に襟を正し、背筋を伸ばして歩いている男達の中で、このコンビはイヤでも目立つ存在だ。
 加えて、神団に仕える身とは思えない、今の発言。すぐ傍を歩いていた実直そうな青年が、ジロリと非難の視線を向けてきた。

 「お〜、これはこれは、フィリップじゃねえか。右足の調子はどうだ〜?」
 睨んできた青年に対し、満面の愛想笑いと、皮肉たっぷりの声を贈ったロニだったが、相手の返事は返ってこない。無言で眉間に皺を寄せ、青年はツカツカとその場を立ち去って行った。

 「おいおい、嫌われたもんだなあ〜ロニ。あいつ、半年前の練習試合で、お前に足を折られたこと、まだ根に持ってやがるぜ?」
 漆黒の髪と瞳という、ロニとは対称的な色彩を持った傍らの男は、くっくっと笑いを堪えながら言った。ロニは悪びれもなく、ひょいと肩をすくめる。
 「あのなあ、ビル。お前も見てたと思うが、半年前のアレは、あいつが俺を目の敵にして、反則スレスレの攻撃をしてきたせいだぜ?正当防衛だ。正・当・防・衛。…ま、男に嫌われたところで、痛くも痒くもねえけどな〜。」

 アタモニ神団直属の騎士団であるという性質上、ここアタモニ騎士団には時折、剣の実力も戦う度胸もないような、貴族の腰抜け子息が、コネで入隊してくることがある。プライドばかりが一人前で、何かと言えば親の地位だの血筋だのを盾にするような連中だ。

 ロニとしては、己が強くなる為の訓練さえできれば、周りの環境などどうでも構わないと思っているが…そういう連中のタチの悪い所は、サラブレットである自分達が、ロニのように田舎町出身で、しかも孤児院育ちの雑種に負けるわけがないという、ハタ迷惑な思いこみをしていることだ。
 お陰さまで、入隊していくらかの日も経たないうちに、ロニは貴族ご子息連中の敵意の的になってしまった。これといって実害があるわけでもないので放っているが、顔の周りを飛び回るハエは、やはり鬱陶しいもので。

 「ったく、いくら俺が強くて、カッコ良くて、女にモテモテだからってよ〜。男の嫉妬は醜いねえ〜ホント。」
 「…強いってのは、まあ認めるが…お前がいつ、女にモテたよ?」
 「うっ、うるせえ!俺があんまりカッコイイから、みんな遠慮してんだよ!断じて、振られてるわけじゃねえからな!」
 「はいはい…ま、そういうことにしといてやるよ。」
 ビルは立ち上がって大きく伸びをした。その腕には、故郷に残してきたという、恋人の名前がタトゥーで刻まれている。

 ロニよりも1年早く入隊したというこの男は、お堅い連中の多い騎士団の中では珍しく、気さくで陽気な気質を持っていた。自然とウマが合って共に行動するようになり、酒や賭け事、花街のオススメの店など、色々なことを教わったものだ。(人に褒められるようなことは一切教わっていない気もするが。)現在ロニの腰に刻まれているタトゥーも、彼のお薦めの店で施したもので…遠く離れたこの土地でも、決して故郷を忘れぬように、デュナミス孤児院のシンボルである、翼のモチーフを刻んだ。

 「そういやお前さあ、この休暇どうすんだよ?またクレスタには帰らねえのか?」
 「あ?んだよ、いきなり。」
 「それそれ。その手紙。また孤児院からなんだろ?」
 ビルは、ロニの足の間にある、今朝兵舎に届いたばかりの手紙の束を指さした。
 「いっつもそんなにもらっといて、2年間返事は書かねえわ、休暇には帰らねえわ…いくらなんでも恩知らずなんじゃねえのか?」

 手紙は、全部で16通。
 ルーティとカイルを除けば、子供の数は14人ということになるが、自分がクレスタを離れた時には、12人だったはずだ。この2年間でまた2人増えたということなのだろう。
 なにも、自分のことを知らない子供にまで、書かせることはないと思うが…まあそれはともかくとして、定期的に届くこの手紙は、ロニにとって何より楽しみなものだった。

 なにぶん配達に時間のかかる距離なので、手紙の内容には、最低でも1ヶ月の時差が生じるが、それでもこれは、自分のいない間に孤児院で起こった出来事を知る、唯一の手段だ。次の手紙が届くまでの間、ロニは何度も何度も、飽くことなくそれを読み返す。

 ただし…ビルの指摘通り、今まで一度も、これらの手紙に返事を書いたことはないのだが。

 「あのなあ、俺には俺なりの、深〜い事情ってもんがあるわけ。このデリケートな気持ち、ビル君にはわかんねえだろうなあ〜。」
 「あーあー、そうかよ。そりゃ失礼しましたねえ。んじゃ俺は、愛しい恋人の待つ故郷に帰る準備をしに、部屋に戻るとしますか。」
 「おう、帰れ帰れ。でもって、振られて戻ってこい。」
 「お前と一緒にすんなっての」と捨てゼリフを残して、兵舎へと向かう友人の背中を見送り、ロニはフッと溜息をついた。

 愛しい恋人の待つ、故郷…か。

 元々、順応性の高い性格だったロニにとって、ここアイグレッテでの生活に慣れるのは、そう難しいことではなかった。クレスタ訛りの強かった言葉の発音も、今では生粋のアイグレッテ人と区別がつかない程になっている。

 だが…それでも、1つだけ…どうしても慣れることのできないことがあった。

 ゴソゴソと足下の手紙を探り、開封されずにいる最後の一通を手に取る。

 『カイルより』

 封筒の表には、そう書かれていた。
 ゆっくりと…名前の部分を指でなぞり、封を切る。

 

Dear ロニ

元気ですか。

オレも元気です。

チビ達が寂しがってるので、手紙書いてやってください。

カイルより

 

 小さく笑い、ロニは何度も、その短い文章を読み返した。

 はじめの頃は、他のどの子供達よりも長く、沢山のことを書いてきていたカイルだったが…回を追うごとに文字の数が減っていき、半年ほど前からは、ずっとこの調子だ。

 他の人間が見れば、味も素っ気もないであろう、この文章。
 しかしロニにとっては、どんなに多くの言葉よりも強く、カイルの心を感じることのできる、熱烈なラブレターだった。
 先程、名前をなぞった時と同じようにして、そっと文字の上に指を滑らせる。

 『元気ですか。オレも元気です。』

 力強く、まっすぐだった、カイルの文字。
 しかしこの文字は、どれも微妙に震えていて…それはこれを書いた時の、カイルの心の乱れを表していた。

 『チビ達が寂しがってるので、手紙書いてやってください。』

 「チビ達」の前に、ぐしゃぐしゃと文字を消した跡がある。
 本人は念入りに消したつもりなのだろうが、よく目を凝らすと、うっすら「オ」という文字が確認できる。恐らく、「オレ」と書こうとして…慌てて消し、「チビ達」と書き直したのだろう。
 新しい紙に換えなかったのは、ルーティから与えられる便せんの枚数に、限りがあるのかもしれない。

 そして…最後に、少し滲んだ、カイルの名前。
 滲みの原因は、紙についた雫の跡。

 カイルの…涙。

 カイルの想いが…心の動きが…たったこれだけの文字の中に、ぎゅっと詰まっていた。
 思わず自分も涙ぐみそうになり、堪えようと上を見上げる。

 ロニが、決して慣れることのできないこと…それは、カイルが傍にいないこと。
 何よりも愛しい存在を、この腕に抱けないこと。
 幾度もの夜を迎え、朝に目覚めても…そのことはロニの心に、変わらぬ痛みをもたらした。

 「…カイル…。」

 ガラス張りになっている中庭の天井からは、正午に差し掛かったばかりの、目映い太陽が見える。
 強い光を放ちながら蒼天に君臨するそれは、ロニに、愛しい人の姿を想い出させた。

 そっくりだと、いつも思う。

 生命力に溢れた眩しい光は、あいつの跳ねた髪と、人を惹きつける瞳のよう。
 
激しく、真っ直ぐに降り注いでくる輝きは、あいつの熱い体のよう。
 
ずっと…どんな時でもそこにいて、自分を明るく照らしていてくれる。

 そんなカイルに…とてもよく似ている。

 だから、カイルが恋しくて、恋しくて、どうしようもなくなった時には…こうして太陽の光を浴びるようにしてきた。
 2年間、ずっと…押し潰されそうになる焦りと寂しさを、紛らわしてきた。

 「カイル……俺は…。」

 雲に隠れかけた太陽に、ポソリと話しかける。
 けれど、太陽は何も答えてはくれない
 カイルのように、愛しい声で応えてはくれない。
 自分の想いを伝えることも…できない。

 ロニは顔を伏せた。そこには先程の便せんが、太陽の光を反射して、眩しく白色に光っている。
 ロニとて、孤児院からの…カイルからの手紙に返事を書こうと思ったことは、何度もあった。
 けれど、ペンを取れば…文字を連ねれば、そこには後から後から、抑えようもなくカイルへの想いが溢れてきて。

 

 お前に会いたい。

 

 今すぐにでもアイグレッテを飛び出し、クレスタへと…お前のもとへと帰りたい。

 

 会いたい

 

 会いたい

 

 そしていつも、そこでペンを止め、手紙を破り捨ててしまう。
 そうしなければ、自分の心が負けてしまいそうだった。文字通り…修行も何もかも投げ出して、カイルの元へと走り帰ってしまいそうだった。

 自分は、もっと強くならなければならない。
 ルーティや、子供達や…そして何より、カイルを守るために。
 そのためには…まだまだ、帰るわけには、いかないのだ。

 

 だから…返事は、書けない…。

 

 「カイル…。」

 

 決して応えてくれることのない、太陽の光に、今日も囁く。
 目映く自分を照らす光を感じながら…カイルを感じながら…。

 

 誰にも届くことのない想いを…ロニは胸の中に、押し殺した。

 

 「ロニ!ロニ・デュナミス!!いるか!!」
 兵舎の方から飛んできた声に、ロニは我に返った。見ると、ロニの所属する小隊の隊長が、いささか慌てた様子で自分を捜している。
 紙の束を袋にしまい、立ち上がって大きく手を振った。

 「ここにいますよ〜!なんすか、いったい?」
 「神殿の神官殿が、お呼びだ!お前に、護衛の任務があるらしい!」
 そのままぶつかって来られたら、骨の一本でも折れてしまいそうな巨体が、早足で近づいてくる。
 「はあ!?冗談でしょう!俺は明日から、休暇ですよ?」
 「仕方ないだろう。
神官殿直々のご依頼だ!騎士団の中で、クレスタの周辺に土地勘があるのは、お前だけだからな。」

 「…クレスタに…?」

 長い間止まっていた運命の歯車が、今、カチリと動き出す音がした。




+++お題09:Dear+++

ロニカイまにあに50のお題、第4弾は
ロニカイスキーNo 9の七尾ルッカさんの小説です!

前編(カイル編)読んだ時にすでに
胸が締めつけられそうで…
後編(ロニ編)読んだ時には
涙がぽろぽろ出てしまいました…!!

切ない系といったら七尾さん!!
本当に凄く心理描写がうまくて…
ロニの気持ちもカイルの気持ちも
こっちにダイレクトに伝わってきて凄いです!

七尾さんお題企画への参加、ありがとうございましたvv



<<戻る













SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送